2024年春季低温工学・超電導学会 セッション報告
SCSC ケーブル 1A-a01-07 座長 植田 浩史
本セッションは全7件で,すべて京都大学を中心に研究開発を進めているSCSCケーブルの関連発表であった。
1A-p01:雨宮(京大):SCSCケーブルのプロジェクトは,2024年4月に未来社会創造事業から新たにALCA-Next事業として研究が継続することになり,その研究開発の予定について説明があった。実機を想定してコイル状に巻線した際にケーブルが経験する磁場と,それに伴う電磁誘導現象,耐電磁力に関する質問があった。
1A-p02:雨宮(京大):コイル応用を想定して,SCSCケーブルの曲げ試験の結果の報告。1層当たり10フィラメント超伝導線3本,4層のケーブルで曲げ半径50mm~20mmで変化させ,電流-電圧特性を測定した。ケーブルとしては,電流-電圧特性の劣化は確認されなかったが,曲げ半径20mmのとき,最外層の1本の超伝導線で電圧の立ち上がりが観測されたが,この線の劣化,電流再配分によるものか原因は不明とのことであった。
1A-p03:雨宮(京大):SCSCケーブルで手のひらサイズの鞍型コイルを製作した。
1A-p04:重政(京大):低渦電流コアを用いたSCSCケーブルの磁化損失を測定した。実験と理論の結果に差があり,遮蔽電流磁場をパラメータとして再計算(フィティング)することで実験を再現した。事前に遮蔽電流磁場を予測できないか質問があった。また,超伝導の遮蔽効果でコアの低渦電流化の効果が低下しているのではと指摘があった。
1A-p05:上垣(京大): SCSCケーブルで巻いたコイルの交流損失を測定するために適したコイル設計についての報告。実験で交流損失が測定しやすくするためにコイル内で横磁界を経験する領域を広く,かつ電源による制約によりインダクタンスが低いコイルを製作するため方針を示した。
1A-p06:曽我部(京大): SCSCケーブルの構造で動的抵抗が大幅に低減されることを数値計算によって示した。
1A-p07:曽我部(京大):保護特性の数値計算による検討。1) 局所劣化した場合,他の層に電流が分流し,2) 層間の接触抵抗による発熱で温度上昇が進み,3) 劣化部を含まない線材のIcが低下,4) コアへの分流というプロセスでクエンチに至る。4層ケーブルよりも2層ケーブルの方が,クエンチに至りやすく,温度上昇も大きい。
SMES・電力制御 1A-p01-04 座長 小川 純
1A-p01 橋本(明治大学) 高温超電導電磁力平衡ヘリカルコイル用の巻線機の連続巻線試験に関する報告が行われ、張力をコントロールしながら装置を制御することにより連続巻き線が可能であることが報告された。
1A-p02 羽多野(東北大学) 電力・水素複合エネルギー貯蔵システムに向けた電力貯蔵装置として大容量で制御性の優れたSMESが適しているとの報告があり、容量と即応性はトレードオフの関係性であることから、並列化することによる長期変動補償の可能性について数値実験により検討が行われた。
1A-p03 東川(九州大学) 大規模太陽光発電からの送電を目指したSMESケーブルシステムのより実用的な検討がおこなわれ、最大電力点追従制御(MPPT)のためのDC-DCコンバーターを通じてSMESケーブルで送電した場合の太陽光発電の出力変動補償の効果についてシミュレーションにより示された。
1A-p04 谷貝(上智大学) 液体水素冷熱の有効利用を目的としたEVの急速充電のための超電導昇圧DC-DCコンバータの提案が行われ、Bi2223コイルを用いた試験回路では臨界電流値以下では95%を超える効率が示されたことが報告された。
超電導・低抵抗接続技術 1A-p06-09 座長 筑本 知子
1A-p06:武田(NIMS)らはREBCO超伝導接合について、4−77Kの広い温度範囲における減衰測定から接合臨界電流Icjを求め、その温度依存性、磁場依存性、磁場印加角(θ)依存性について議論した。θ依存性については、ほぼREBCO本体のIcのθ依存性と同じ形の式でフィッティングでき、そのパラーメーターの絶対値や振る舞いもREBCO本体と同様であることが明らかとなった。詳細なメカニズムについては、まだ明確ではないが、本結果はマグネット設計では接合の特性をREBCO本体と同様に取り扱って良いことを示す。
1A-p07:世良ら(九大)は音波接合法をもちいたREBCOの直接接合について、金属安定化層による接合抵抗の音波の入力パワー依存性の違いについて調べた結果について紹介した。具体的にはCu-Cu、Ag-Cu、Ag-Agについて比較し、ヒートパワーの閾値は材料の組み合わせによって異なることを示し、Ag-Agが最も低くなった。一方、接合抵抗については、Cu-Cuは17.3nΩcm2が得られるのに対し、Ag-Agは324nΩcm2とかなり大きな差が出ている。
1A-p08:伊藤(東北大)らは、BSCCOおよびREBCO線材のIn等のインサート金属を用いた圧接による低抵抗接合について、Inはクリープ変形が懸念されることから、他の金属をインサートとして用いた場合の接合性能のインサート金属依存性について報告した。インサート金属については、In箔の他、Sn箔、In箔とSn箔を重ねたIn/Sn/In箔、In52Sn48箔の3種類を用い、圧接時の圧力による接合抵抗の違いを比較した。Sn箔、In52Sn48箔では100MPa程度の圧力が必要であり、またInと比較して抵抗が高い結果となった。
1A-p09:横山(JASTEC)らは量産評価用ジョイントテスト装置の開発を行っており、それを用いたREBCO-REBCOジョイントの測定結果について報告した。測定は液体ヘリウム中での通電後、永久電流モードでの電流減衰により行った。目標値の1x10−12Ωは数分で評価できるとのこと。ジョイント抵抗の磁場依存性(超電導面に垂直に印加)を調べたところ、1Tを境にそれよりも低磁場では急激に抵抗が減少する一方、高磁場ではあまり増加しない結果が得られた。それについて、パッチ材の電流特性の影響が出ている可能性を指摘した。
加速器・医療用加速器 (2) 1A-p10-13 座長 尾花 哲浩
本セッションでは、4件の発表があった。
1A-p10王(KEK):異なる銅層厚を有するREBCO線材を用いた丸型ケーブルの臨界電流値とケーブルコア直径との関係を、定量的に評価した結果が示された。
1A-p11青木(KEK):Belle超伝導ソレノイドの状態監視システムのための、ソフトウェア・ツールキットEPICSを用いた温度モニターについて報告があった。
1A-p12 植田(岡山大):Ultra-Baby Skeleton Cyclotron(UBSC)用REBCOコイルシステムで、クエンチした際に生じるコイル内での電流分布及び電磁力分布の数値シミュレーションの結果が示された。クエンチによって、設計値を上回る電流値の増加が確認された。
1A-p13日浦(早大):UBSC用REBCOコイルシステムにおいて、コイルの一部に局所的な劣化が生じた場合の熱的過渡安定性解析が行われた。コイル層間電気抵抗値による熱的安定性及び電磁現象への影響を明らかにした。
HTS 線材 1B-a01-05 座長 井上 昌睦
1B-a01:木須(九大)らは、REBCOコート線材の作製条件と臨界電流との関係を、コンビナトリアル製造とリール式磁気顕微計測、機械学習からモデリングした結果について報告した。基板温度やレーザ出力、雰囲気圧力などパラメータが多岐に亘るにも関わらず実験結果を良く再現するモデルであることが紹介された。また、同モデルからマルチターンで作製した線材のIc予測を行ったところ良い一致が得られていた。
1B-a02:町(産総研)らは、レーザースクライビング法により10分割したREBCO線材磁場中臨界電流特性について報告した。加工後のIcは未加工線材のIcの約79%であり、スクライビング加工による面積低下率が15%であったことから、加工に伴うIc低下率は溝1本あたり0.6%程度に抑えることが出来たとのことであった。
1B-a03:濱本(九工大)らは、ツイストを施したREBCO線材に縦磁界を印加した際のIcについて調べた結果を報告した。ツイスト前には縦磁界によるIcの向上は確認できなかった市販のREBCO線材が、ツイストピッチ200mmでツイストしたところIcの増加が確認されたとのことである。この理由は、ツイストにより電流のパスが変化し、電流と磁界の平行度が向上したためであると考察している。
1B-a04:金沢(室蘭工大)は、丸刃を重ねた加工機により断続的なマイクロクラックを導入した線材の臨界電流及び磁化特性について報告した。クラックにより磁化損失が低減する一方で、臨界電流が上昇するケースもあると主張している。
1B-a05:藤本(九大)らは、Al2O3を細線状にパターニングした基板上にMOD-YBCO薄膜を成膜することによりYBCO薄膜をマルチフィラメント化する手法について報告した。MOによる磁場侵入像からAl2O3によりYBCO薄膜が電気的に分離されている様子が確認されるが、Zrの場合とは見え方が異なっており、その差異については今後の詳細な検証が期待される。
HTS 臨界電流 (1) 1B-p01-04 座長 金沢 新哲
1B-p01:土屋 雄司(東北大)
東北大の土屋グループでは、5 kAパルス電流を用いて、強磁場・可変温度中でREBCO線材の臨界電流を瞬間的に測定した結果について、発表された。温度4.2 Kから77 Kにおいて、 自己磁場から強磁場25 T までの磁場中で測定した結果を報告した。質疑では、パルス電流による臨界電流の影響について質問があり、特に問題ないとの回答があった。
1B-p02:呉 澤宇(九大)
IBAD-PLD法で作製した長尺REBCO線材の電流阻害領域の解析を行った。測定結果と、機械学習モデルを利用して評価し、メーカーが異なる線材に対応できる解析方法について検討している。質疑では、線材幅方向での電流阻害領域について質問があり、まだ詳細について調べていないが、幅の半分以下などの領域が考えられるとの回答があった。
1B-p03:亀谷 文健(Florida 州立大)
K-Ba122多結晶体の作製過程における臨界電流密度の増減と起因について発表された。結晶粒間での臨界電流が高いことが測定評価されているものの、粒内ではまだ高い臨界電流が得られず、これが全体的に臨界電流が低い原因とみている。結晶粒サイズについて質問があり、測定図から大きいサイズもあるが、全部大きいサイズに製造することの難しさなどについて説明があった。
1B-p04:長村(応用科学研)
BSCCOテープ線材の高強度化において、Brass-WC高強度銅複合材を作製評価した。特にヤング率、比抵抗、熱膨張係などの物理特性を測定し、応用可能性があると考えている。今後BSCCO線材以外の超伝導線材の高強度化に期待できると考えている。質疑では、タングステンなどの材料を混合することで高強度化は可能かの質問があり、いろいろテストしていることと、良い性能を出すのが容易ではないが、今後期待はできるとの回答があった。
流動・熱伝達 1B-p05-09 座長 槙田 康博
プール沸騰熱伝達の特に核-膜沸騰遷移現象に関連する講演が3件、超流動λ点近傍での特異な現象紹介が1件、管内流の圧力損失の計算式評価が1件の計5件の発表があった。
1B-p05:松尾(山東理大)等は超伝導限流器の作動後の復帰時間短縮(急速急冷)を目的に、テープ状線材の表面にフィンや多孔質体を接合することで膜沸騰の抑制を図っている。その1つとしてT型特殊フィンを提案してその沸騰膜の抑制効果を実験結果として示している。一見すると沸騰膜をむしろ保持してしまうのではないかと感じたが、それぞれのT型フィンのところで局所的な流れが構成され気泡が速やかに伝熱面から離れているようで、膜沸騰の発生を抑制している結果が示されていた。
1B-p06:堀(静岡大)等は、同じく沸騰膜発生の抑制法として、熱伝達面に並行溝を加工し、それをシリコンシーラントで埋める手法を導入し、4倍近い冷却速度の試験結果を示している。
1B-p07:高畑(NIFS)は核‐膜遷移領域の熱伝達に注目した測定結果を示している。銅ブロックの上面のみ液体窒素に接する試験装置を準備し、銅ブロックの温度が一定となるようヒータ加熱を制御して遷移領域の熱伝達量を測定した。膜沸騰領域から温度を下げていき、最小熱流束点を経て徐々に熱伝達量が増えていく結果は得られたが、核沸騰への遷移は制御不能な温度変化になっていた。
1B-p08:高田(NIFS)等は、微小重量下でのラムダ点近傍の超流動ヘリウム沸騰実験において、加熱部周辺に形成される気泡が不安定かつ非常に小さいという特異な現象を観測していたが、重力下でも再現するかどうか?調査をしていた。液頭圧力分の音響ノイズを伴う弱サブクール膜沸騰モードを裏付ける実験データが得られたが、微小重量下で観察された現象は観察されなかった。
1B-p09:島崎(産総研)等はらせんコイル状に巻かれた細管中の流体の圧力損失について、これまで提案されてきた計算式の評価を実測値との比較で行った。内径0.1~0.7 mmのSUS304細管2 mをらせん状に巻き、窒素とヘリウムガスを室温と77 Kで流して圧力損失を実測した。曲げ管の効果を考慮した圧力損失の計算式(Manlapaz and Churchillの式、Schmidtの式、Chobadiの式)との比較をし、実測は計算値より概ね低い値となっていることが示された。
計測 1B-p10-13 座長 島崎 毅
1B-p10:神田(中部大)らは、熱電対と竹ひごを利用した液体窒素用液面計を提案した。熱伝導率が低い竹ひごを使用したので、既設の静電容量式液面計に比べ大幅に熱侵入を抑制できると見積もられた。構造上、液面位置の校正も不要である。
1B-p11:福本(山本電機)らは、材料粉末の粒径に注目して試作した従来よりも超伝導転移温度を低下させ、より液体水素温度に近づけたMgB2線材で試作した液体水素用液面センサーの性能を評価した。液面を覆う気相部の圧力が高くなると液面検出精度が低下する課題について、今回試作したセンサーでは精度が改善したことを示した。
1B-p12:井上(岡山大学)らは、大電力非接触給電システムへの応用を想定し、材料特性情報が不足している軟磁性材料として、フェライトとダストコアの低温での磁気特性を評価した。低温では室温での使用に比べて特性が劣化することが分かった。これは、室温で使用することを前提に調整された組成である事に起因していると考えられる。材料組成を改善することで特性向上の可能性がある。また、異方性などを含め特性の予測は簡単ではなく、低温で実測することの重要性を指摘した。
1B-13:山口(中部大)らは、歪ゲージの信号読取を、従来の3線式ブリッジ回路から、4線式のアナログ差分回路を用いて行うことで、大幅に読み取り感度を向上できることを報告した。同様の読取手法を半導体歪ゲージに応用した場合、従来よりも感度を数桁向上でき、例えばオシロスコープで歪の実時間計測を行える可能性もある。
冷却システム 1C-a01-06 座長 夏目 恭平
1C-a01:永濱(JASTEC) 発表者らはNMR マグネットの液体ヘリウムと液体窒素の蒸発量を大幅に低減する冷媒蒸発抑制装置を開発し、2023年度から販売を開始した。性能評価用のテストクライオを用いて、製品直近10台の冷凍能力をヒーターによって測定し、バラつきを調べた。性能のバラつきは使用しているGM冷凍機の個体差によるものと結論付けた。
1C-a02:岩本(核融合研) 阪大レーザー研におけるレーザー実験に使用する固体・液体水素の応用例について報告した。中性子モデレータとして、銅製の固体水素モデレータを開発した。実験では液体水素をモデレータ部に貯め、温度を下げて固体させ、固体水素モデレータを用いた冷中性子の観測に成功した。他にも陽子加速用ターゲットと核融合実験用ターゲットについて紹介が成された。
1C-a03:河江(九大工) 超伝導転移により金属内水素のトンネル拡散が劇的に増大するのか明らかすることを目的に、振動ワイヤ法を用いて水素吸蔵超伝導金属の機械的特性の変化を調べた。実験の結果、超伝導転移後の信号は、NbH0.02 の方がPure Nb よりも線幅の広がりがわずかに大きい。これはNbH0.02の方が内部摩擦が大きく、水素トンネル拡散のために線幅が広がったことを示唆した。
1C-a04:脇(鉄道総研) 20K付近での高効率な冷却方法として静止型磁気冷凍機の検討を進めている。超電導コイルの電流変化の繰返しを電源と接続せず誘導回路によって行った場合の、基本動作と2次平衡電流を数値計算と実験によって確認した。数値計算結果で予測されるように、液体窒素を用いた実験においても2次平衡電流を大きくするのに最適なコイル中心間距離の存在することが確認できた。
1C-a05:朱(同済大学) 共用イナータンスチューブ多段パルス管冷凍機に関する発表で、英語で行われた。ピストンステップ比で各シリンダーの出力を制御することで、高い冷凍効率を得られることが計算によって求められた。今後は実際に本冷凍機を製作し、実験を進めていく。
1C-a06:星野(明星大学) 超電導回転機におけるセルフポンピング効果について、簡易回転子モデルを用いて、冷媒流路出口の圧力と温度を条件として入口圧力を求めた。本報では、回転数の高い航空機用回転機を対象とし(回転数5000 rpm)、冷媒種類を変えて計算をしている。H2では入口圧力の顕著な減圧は見られなかったが、Neでは比較的大きなセルフポンピング効果が得られた。
HTS コイル・安定性 1C-p01-06 座長 西島 元
間藤 (1C-p01, 北大) は数値シミュレーションで生成したコイル電圧の時間変化データを教師データとして深層学習によるクエンチの予測を行った。今のところ6秒程度後の予測は信頼性があるが、発熱が小さく遅いクエンチの場合は早く予測しがちであるとのこと。
今川 (1C-p02, NIFS) は3ターンREBCOコイルのLN2, LH2中における熱暴走試験結果について報告した。銅テープを共巻きすると、伝熱媒体として機能するとともに安定化材として機能し、劣化部の温度上昇抑制に寄与すると報告した。
櫻井 (1C-p03, 東北大) 金属絶縁体転移材料を利用したスマート絶縁によるREBCOコイル保護を目指し、金属絶縁体転移材料のうち最も転移温度が低い (Pr1-ySmy)1-xCaxCoO3 (PSCCO) の電気抵抗の温度変化を調べた。今後、コンタクト抵抗の温度変化による制御を目指す。
成嶋 (1C-p04, NIFS) はヘリオトロン核融合炉応用を目指したHTS単純積層導体 (WISE導体) の通電試験結果を報告した。8 T, 6 Kで40 kA (Je=31 A/mm2) 通電に成功した。また、8 T, 20 Kにおいて22 kAまで500 A/sで97 cycle繰り返し通電を行い、劣化しないことを確認した。
小林 (1C-p05, 千葉大) は並列導体によってインダクタンスを低減したNIコイルの電磁現象解析を行った。HTSインサートを想定し、無通電の状態で外部磁場が変動した場合の誘導電流を解析したところ、並列数の多い(ターン数の少ない、インダクタンスの小さい)ほうが大きな誘導電流が流れる。また誘導電流経路内の接触抵抗による発熱のために、線材に不可逆なダメージを及ぼすリスクがあると指摘した。
榊原 (1C-p06, 北大) はNI-REBCOマグネットの局所的相互インダクタンス計算の高速化に取り組んだ。多重極展開法 (MEM: multipole expansion method) を用いることで計算時間を顕著に短縮できると報告した。
小型冷凍機・低温物性 1P-p01-04 座長 平山 貴士
1P-p01:白井氏(筑波大)から、ハンプソン式の水素凝縮熱交換器特性について報告された。
液化した水素液面の時間変化を計測し、目標伝熱量である67Wを達成していることを示した。
1P-p02:佐藤氏(筑波大)から磁性体駆動型磁気冷凍機における駆動力の要因分析について報告された。
超伝導コイルの荷重支持棒に発生するひずみを計測することで、駆動力のうち磁気力のみを取り出すことに成功した。計測した磁気力は1サイクルにおいてヒステリシスを持っており、今後さらに調査を実施するとのこと。
1P-p03:松本氏(神戸製鋼所)からNMRマグネット向け再凝縮装置について報告された。冷媒の蒸発量が最も大きい800MHzマグネットでも再凝縮できることを示した。さらに再凝縮装置を搭載することで、増加する熱侵入熱量について実験的に見積もり、装置運用に問題がないことを示した。
1P-p04:山田氏(KEK)からCZ法、EFG法のそれぞれの結晶育成方法で製作したサファイアにおける熱伝導率測定結果について報告された。測定は4Kから100Kの広い温度範囲で実施され、2つの育成方法において熱伝導率に違いがないことを示した。
低融点はんだ 1P-p05 座長 寺尾 泰昭
本セッションの発表は1P-p05松永らのInBiSn系およびPbCd含有InBiSn系低温融点金属の低温域における電気輸送特性の1件であった。上記材料はREBCOコイルの含浸材として注目を集めており、高温超電導線材のはんだ付けや、超電導接続等で実績のある材料であるが、低温域(4-270K程度)における諸特性は体系的にまとめられていない。そこで松永らはPPMSを用いて室温から2.5KまでInBiSnを中心とした、7種類の低融点材料の電気輸送特性を評価した。報告では電気抵抗率の温度・磁場依存性を評価するとともに、SEMによる組織観察も実実施。InBiSn系は無磁場下において4-7K近傍で超電導転移を示す一方、InBiは2.5K以上では超電導転移されないなど、各々の材料の電気輸送特性データが体系的に示された。今後は含浸材や接続材としての機械的な特性や電流密度特性など評価にも期待が寄せられる。発表は1件のみであったが、含浸材や接続材として改めて注目されている材料群だけに聴講者が多く活発な議論がなされていた。
送電ケーブル・回転機 (1) 1P-p06-10 座長 山口 作太郎
1P-p06 (木内)縦磁場効果を用いた超電導直流ケーブルを模擬した導体構成で、マグネットを組み込み、臨界電流測定を77 K, 67 Kで行った。最適磁場では3% ~ 4%ほどの臨界電流の増大が観測された。
1P-p07(野地)縦磁場効果の実験データを元に交流超伝導ケーブルの同軸導体構成に於いて、それぞれの層での巻きピッチの最適設計を行い、5 KA級ケーブルの交流損の最小化を数値的に行った。それをフジクラでの実験と比較を行い、比較的良い一致を得ていた。但し、実用化のためには更なる交流損の低下が必要と結論されていた。
1P-p08(河野)液体水素ポンプのための超電導モータの検討を数値的に行い,常伝導モータとの比較も行った。超電導線材はMgB2であり、遠心式ポンプの利用が想定し、比較的早い回転数(1350 rpm)のモータを想定していた。
1P-p09(吉田)HTSテープ線材の面に垂直磁場によって電流密度分布の均一化が行われることの検証実験が行われた。条件は、テープ線材には10 Hzの交流電流を流し、印加磁場も同じ周波数で交流磁場を印加していた。
1P-p10(寺尾)永久磁石を内側(外径60 )、RE123テープ線材を利用したマグネット(外径140 )を外側に配置した磁気軸受けの実験を行い、~1800 rpmで回転を行い、 スラスト力 40 Nほか基礎特性を得ていた。
医療用加速器 (1) 1P-p11-12 座長 村上 陽之
1P-p11:尾花(NIFS)は、重粒子線ガントリー用のアクティブシールド型超電導マグネットの設計について報告した。3次元コイル形状(コイルの長さ)による磁場分布の変化を示し、2次元での最適化だけでは磁場設計が不十分である可能性を示した。また、アクティブシールド型超電導マグネットの設置誤差の影響について評価を行い、設置誤差の影響は小さいことを示した。
1P-p12:折原(早大)らは、高温超伝導スケルトン・サイクロトロンに関連する要素技術を取り入れた1/2スケール実証用REBCOコイルシステムの通電試験に対して実施した数値解析結果の報告を行った。磁束侵入や遮蔽電流磁場を考慮するため、REBCOテープ線材幅方向も分割した数値解析手法を用いた。巻線間の層間電気抵抗をパラメータとして調整(700-1000μΩ/cm2程度)することで、実験波形をよく再現できることを見出し、実機運転時の発生磁場分布の時間変化などの評価に開発した解析手法が有効であることを示した。層間電気抵抗のばらつきの要因や、コントロール手法について議論が行われた。
回転機 (2) 2A-a01-04 座長 宮﨑 寛史
2A-a01:小笠原(三菱電機) NEDO先導研究にて実施している液体水素冷却高温超電導発電機の開発概要に関する講演である。最終目標は600MW級発電機であり、本PJの中でデモ機として10kW級、1800rpmの液体水素冷却高温超電導発電機の開発状況について報告された。
2A-a02:大屋(関学) 10kW級デモ機の設計、製作状況に関して報告された。界磁コイルのみ超電導とした半超電導回転機であり、界磁コイルはレーストラック形状のダブルパンケーキ(DP)コイルを4個配置した4極機である。健全なDPコイルを製作するため、線材を受け入れ後に再度Tapestarで検査を行い、合格品のみを使用したということである。現在、組み立てが完了し、今後回転試験を実施する予定である。
2A-a03:大屋(関学) 最終目標である600MW機において界磁コイルにかかる遠心力が50MPa程度であり、遠心力に耐えうる構成とするためDPコイルをSUS製のコイルケースに入れることで高強度化を目指している。事前の圧縮試験で可逆的にIcが低下した原因調査について報告された。
2A-a04:小畑(三菱電機) コイルケースに入れたDPコイルにおいて、軸圧縮をかけた状態でのIc測定について報告された。今回は、プレス機からの熱侵入の影響でIcが可逆的に低下してしまったということで、今後は試験方法を改良する予定である。
バルク作製 (1)・着磁特性 (1) 2B-a01-06 座長 原田 直幸
2B-a01箱石(岩手大)からは、種結晶にGdBCOバルクを使用してSDMG法によりYBCOバルクを作製し、SDMG法における前駆体の溶融条件の最適化と、SDMG法で作製したバルクの捕捉磁場はTSMG法よりも高い値を示すことが報告された。
2B-a02遠藤(青学大)からは、様々なミスフィット角で作製した溶融凝固バルクの実験結果が報告され、3つの磁場分布のモデルが示された。隣接する種基板間のミスフィット角はできるだけ小さく、少なくとも5°以下にすることが必須で、今後は5°以下で作製していくことが示された。
2B-a03元木(青学大)からは、SDMG法で外径60mmを超える大型のREBCOバルクの育成と、77KにおけるGdBCOバルクの捕捉磁場は同心円に近い分布が得られたことなどが報告された。また、リングバルクの育成について報告された。
2B-a04伊豫(産総研)からは、2005年に発見され、バルクの作製が極めて難しいCaC6バルクについて、Naを触媒として高速に合成する方法について詳細な報告が行われた。また、磁化測定から求めたJcの磁場依存性が示された。
2B-a05井田(東京海洋大)からは、開発した2次元磁場センサの概要が紹介され、パルス着磁におけるGdBCOバルクの磁束密度の過渡的な変化をバルク表面で測定した実験結果について報告が行われ、パルス着磁の間に発生したフラックスジャンプによる侵入磁束密度の分布の変化が示された。
2B-a06横山(足利大)からは、機器の小型・軽量化を目的に軟鉄ヨークの形状を八足型とY字型を考案し、パルス着磁実験を行った結果がまとめられ、単位重量当たりの総磁束量を比較してY字型に優位性があることが報告された。
HTS 薄膜 2C-a01-06 座長 土屋 雄司
2C-a01:下山(青学大)らは、新たな原料溶液を用いたFF-MOD法によるRE123薄膜の作製について報告した。原料溶液を、プロピオン酸に溶解しやすいRE123焼結体をあらかじめ用意してから溶かすことで、簡単に用意でき、さらに従来の2倍ほど溶解度が高い点も優位であるとした。この手法によりRE123線材の低価格化、作製の簡便化が期待される。
2C-a02:相楽(青学大)らは、新たな原料溶液を用いたFF-MOD法によるHfおよびZr添加RE123薄膜の作製について報告した。金属添加によって磁場中特性は向上する一方でBa不足について調整が必要であるとした。今後、組成の定量的な調整が望まれる。
2C-a03:堀口(青学大)らは、新たな高濃度原料溶液を用いたFF-MOD法によるRE123薄膜の膜厚制御による高Ic化について報告した。Y123層にGd123層を積層することで、153 A/cm-幅のIcが得られるとした。
2C-a04:石井(都立大)らは、FF-MOD法を用いたGd123薄膜への金属3種(Ce, Zr, Sn)の共添加により高密度分散したBaMO3ピンニング中心の導入について報告した。TEM像では直径10 nm程度のピンが導入されており、Fpが2倍ほどに向上するとした。
2C-a05:松本(名大)らは、高密度のナノロッドを導入したRE123薄膜において、ひずみ量から酸素欠陥量およびTcを機械学習により推定すると、RE123マトリックスのTcが大幅に低下するとした。今後、ナノロッド周辺のひずみコントロールが望まれる。
2C-a06:毛利(九工大)らは、磁場侵入長より薄い超伝導薄膜における縦磁場中臨界電流の1次元GL方程式を用いた計算結果について報告した。その磁場依存性は膜厚によらず過加熱磁場で規格化した磁場ではよくスケールされるとした。今後、実験との比較や適応可能な物理現象の議論が望まれる。
A15 線材 3A-a01-04 座長 杉本 昌弘
「3A-a01:植木(KEK)」は、SuperKEKB加速器の補正電磁石用として、直径50μmのNb3Al極細素線を49本撚り合わせたR&W型超電導ケーブルを開発した。生成熱処理後に曲げ半径を変えて異なる温度で測定したIcは、曲げ半径15mmまで低下が無かった。Ic測定時のクエンチ発生に対し、測定方法や撚線構造の影響について議論があった。
「3A-a02:伴野(NIMS)」は、Cu母材にZnおよびMgを添加した内部すず法Nbチューブ単芯線を試作し、Nb3Sn層形成とJc特性に与える影響を調べた。Zn添加によるNb3Sn層の成長促進に加え、微量のMgを共添加することで、Nb3Sn層当たりのJc特性が大きく向上する傾向が示された。
「3A-a03:伴野(NIMS)」は、分散スズ法Nb3Sn線材の高磁場特性を向上させるため、Sn芯、Cu母材、Nbフィラメント中のいずれかにTiを添加したサンプルを製作し、Nb3Sn生成熱処理過程におけるNb3Sn層形成状態を調査した。拡散メカニズムについての質疑応答や、超電導特性と伸線加工性の両方が向上するTi添加場所や中間焼鈍のタイミングについての議論があった。
核融合 3A-a04-08 座長 王 旭東
5件の発表があり、このうち3件の発表について以下に報告する。
3A-a05:柳(核融合研)から、REBCO線材で開発したSTARS導体を用いた20K/20Tモデルコイルの設計について報告された。STARS導体は、12mm幅REBCO線材を15枚積層して銅ケーシングに収納し、絶縁層を介してステンレスジャケットでカバーされている。 コイル内のジョイント場所についての質疑では、コイル直線部に設ける予定で、内側でも膨らみがなくスムースな表面である説明された。以前は幅狭い線材を用いる導体構造であったのに対して、12mmに変更した理由についての質疑では、エッジワイズ曲げひずみが小さいことと、遅い励磁速度を勘案して、製作性の向上のため12mmを選択したという説明であった。
3A-a08:西村(核融合研)から、Nb3Sn線材とREBCO線材の中性子照射実験について報告された。東海研究所原子炉にて24時間の中性子照射を行った。詳細な照射量は今後測定する予定もある。特に、REBCO線材はY系とGd系とEu系のREBCO線材を用いて、未照射のもの、アルミ箔のみで包装して照射したもの、カドミウムの厚みを2通り変えて(中性子の遮蔽量を変えて)包装して照射したもので比較実験を行った。各サンプルのTc測定結果から、Gd系が遮蔽の差によって徐々に劣化したのに対して、Y系は照射による劣化は観測されなかった。これは、Y系がGd系より中性子の吸収断面積が1/100低くなっていることが要因と考えられる。Eu系の測定はまだできていないが、Gd系と同程度の中性子の吸収断面積であるので、Gd系と同様に劣化する予想される。質疑では、核融合ではGd系よりY系を選ぶべきかという問いに対して、状況に応じた遮蔽設計が必要という回答であった。核融合のような高線量応用では極めて重要な基礎研究であると思われる。
MgB2 3B-a01-03 座長 木内 勝
3B-a01:岩崎(青学大)らは、新たに試作したBホウ素を原料に、Premix拡散法を用いてMgB2バルクの高Jc化を行った。試作のBにはAlやMnが含めれているが、フルウチ社製のBに比べて粒径は小さく、750℃、24hの熱処理によってMgB2バルクを作製すると、低磁界領域で高Jcが得られることを示した。
3B-a02:田中(日立)らは、MgB2線材の熱処理時間の長時間化がひずみ耐性に与える影響を調べた。48 時間の熱処理線材では12時間熱処理線材に比べて、MgB2生成が進むことから、均一なフィラメントが生成されることによりフィラメント自身の強度は向上するが、Icは20%程度低下することを明らかにした。
3B-a03:大島(神戸大)らは、液体水素用液面センサーの高精度化のためには、液体水素沸点近傍の臨界温度Tcを有するMgB2線材の開発を行っている。今回はホウ素の粒径がTcへ与える影響を調べ、粒径が大きくなると未反応部分が増えるために、MgB2線材のTcが低下することを報告した。
磁場応用・産業応用 3B-a04-09 座長 井上 良太
3B-a04 :福井工大のグループから,超電導磁石を利用した淘汰管磁気分離実験の結果が報告された。その結果,淘汰管を用いた磁気分離法が常磁性体の分離に有効であることが示された。
3B-a05 :福井工大・ICUSのグループから,原子炉内のクラッドの分離技術として,超電導コイルを用いた磁気分離の可能性について報告された。
3B-a06 :芝浦工大・足利大・サーマルブロックのグループから,非接触撹拌機の実現に向けて,小型冷凍機と高温超電導バルク磁石を用いた実験装置の概要および永久磁石の磁気浮上に関する実験結果が報告された。
3B-a07 :東北大のグループから,磁気誘導型ドラックデリバリーシステムの実現に向けて,HTSコイル群からなる磁場源の試作および磁性粒子の集積結果について報告された。
3B-a08 :テラル・新潟大のグループから,アルミ押出成形用750kW級磁気加熱装置におけるコイルのI-V試験結果および装置の概要について報告された。
3B-a09 :東北大のグループから,複数のREBCOテープから成る磁気浮上型超電導免振装置の浮上力および復元力特性の実験結果に関して報告された。
デバイス応用 3C-a01-07 明連 広昭
3C-a01 町村(横国大)らは、マイクロ波で制御・読み出しを行う超伝導量子ビットにおいてインターフェースとして重要であるジョセフソンパラメトリック発振器(JPO)に対して、その動作特性のシミュレーションを行い断熱量子パラメトロンによるJPOの位相判別に関するシミュレーションを行い、正常動作するパラメータに関する考察を行った。
3C-a02 大森(横国大)らは、断熱磁束量子パラメトロン(AQFP)回路を用いた同期式4ビットカウンター回路をDラッチをフィードバックで実現する方法と2安定状態を用いる方法(QFPT)で設計し、両者の比較を行った。
3C-a03 安川(東大)らは、nTronとして提案された超伝導三端子素子のパルス電流動作に対して時間依存をGinzburg-Landau方程式と熱拡散方程式を連立させ有限要素法により数値シミュレーションを行った。結果として三端子動作に二種類ある動作を再現することに成功した。
3C-a04 田中(名大)らは、機械式冷凍機を用いた測定環境における熱雑音の寄与を明らかにすることを目的に、機械式冷凍機で冷却されたオーバーダンプ型のジョセフソン接合の臨界電流部分のラウンディングを観測し、観測した測定温度では主に熱雑音の寄与による特性であることを報告した。
3C-a05 永井(横国大)らは、断熱量子磁束パラメトロン(AQFP)回路のビット誤り率が熱雑音と次段のAQFP回路からのバックアクション電流を考慮することにより実験結果を再現できることを報告した。
3C-a06 山中(横国大)らは、スケーラブルなベイジアンネットワークを設計するために、NOTゲートを用いた単純な1x2デコーダーを用いたベイジアンネットワークを構成し、4.2 Kの熱雑音を考慮したシミュレーションにより正常動作を確認した。
3C-a07 浅香(横国大)らは、超伝導ストカスティック関数演算回路用に、ジョセフソン伝送線路を用いた超伝導乱数発生器を用いて平均電圧を共有することで相関のないストカスティック数を生成しexp(-x)の3次近似を計算することで性能評価を行った。
HTS 臨界電流 (2) 3P-p01-03 座長 馬渡 康徳
REBCO薄膜・線材の臨界電流特性に関して3件の報告があった。
3P-p01:関戸(福岡工大)は、Zrをパターニングした基板上に形成したREBCO薄膜の臨界電流特性について、走査型ホール素子磁気顕微鏡による捕捉磁場観測およびマイクロブリッジ加工した試料の電流・電圧特性を報告した。電流・電圧特性によるとZrが存在するブリッジでは臨界電流の低下が認められるが、線形抵抗を示すわけではなく、Zrの効果の詳細は不明であった。
3P-p02:隠崎(福岡工大)は、REBCO線材のよじり角度と臨界電流との関係について、走査型ホール素子磁気顕微鏡による捕捉磁場観測および走査型電子顕微鏡による組織観測を報告した。よじることで臨界電流が低下した線材の一部には、捕捉磁場が低下した部分があり、その部分の微細組織にはクラックや結晶粒の剥離が見られることが明らかになった。
3P-p03:宇都宮(福岡工大)は、超伝導薄膜に欠陥を設けた試料における磁気光学イメージング画像から評価した臨界電流密度について報告した。磁気光学像のデータから得られた捕捉磁場分布に全体的な傾きが認められ、磁気光学像データに簡単な線形校正を施すことで、合理的な磁場分布が得られることを確認した。校正方法の根拠は不明だが、きれいなデータが得られているため、今後の進展に期待したい。
バルク作製 (2)・着磁特性 (2) 3P-p04-06 座長 元木 貴則
本セッションでは3件のポスター発表が行われた。3P-p04 川島(イムラ・ジャパン)らは、鉄系超伝導体CaKFe4As4(CaK1144)のバルク作製について報告した。CaK1144は放電プラズマ焼結(SPS)法により容易に緻密化したバルク体が得られる。今回、Al微粉末とバルクを同時にSPS処理することで、Al鋳包み状態としたバルク作製に成功した。AlとCaK1144の反応はわずかであり、Al鋳包み後のHIP処理により組織の緻密化が進行したことが報告された。3P-p05 石田(産総研)らは、先のAl鋳包みCaK1144バルクの捕捉磁場特性について報告した。Al鋳包みだけでは、マイクロクラックの低減効果は小さいものの、Al鋳包み後のHIP処理により組織が緻密化し捕捉磁場も向上することが示された。半径15 mm, 厚さ10 mmのバルクの4.2 Kにおける表面中心での捕捉磁場は約0.6 Tと見積もられた。3P-p06 原田(山口大)らは、市販の12 mm幅REBCOテープ線材を正方形もしくは長方形状に短冊状に切り出して積層することで疑似的なバルク磁石を作製し、その捕捉磁場特性を報告した。試料の切り出し方の違い(はさみ、エンドミル)によって加工時のダメージが異なることが示された。エンドミルで加工した積層薄膜では、積層数と捕捉磁場の関係がほとんど理論通りとなることが報告された。
マグネット開発 3P-p07-09 座長 高畑 一也
3P-p07:山田(KEK)からは、国際リニアコライダー(ILC)の加速空洞と超伝導磁石を組み込んだクライオモジュールを2023年からの5年で試作する計画について詳細が報告された。クライオモジュールの製作に先立ち、磁石だけの単体試験も行われる。稀に発生する暗電流シャワーによるコイルへの擾乱が課題として挙げられた。
3P-p08:ZAMPA(東北大)からは、現在開発が進められている33 T無冷媒超伝導マグネットの19 Tインサートコイルのプロトタイプを励磁した結果が報告された。コイルは、REBCOテープを使用した20層のパンケーキコイルである。コイル両端電圧には、磁気ヒステリシスによる電圧が重畳したが、これを解析により再現することに成功した。
3P-p09:江原(住重)からは、二次コイルによるクエンチ時のエネルギー回収を、冷凍機冷却コイルにおいて実証した結果が報告された。二次コイルの冷却に冷凍機の1段ステージを用いることで、クエンチ後の復旧時間が短縮されることが示された。よりコイルが大きくなると、二次コイルに働く電磁力が課題となる。
大電流導体開発 3P-p10-11 座長 伊藤 悟
3P-p10 川越(鹿児島大): REBCO線材の積層導体を金属ジャケット内に収めた大電流導体において,金属ジャケットで発生する渦電流損失を実験・数値計算で評価した結果が報告された。内部導体は磁界遮蔽効果を持ち,テープ⾯に垂直方向,平行方向の変動磁界を印加した時に,それぞれ低周波時(<30 Hz),高周波時(~100 Hz)に,金属ジャケットでの渦電流損失が,内部導体がない場合に比べて低減することが示された。
3P-p11 小野寺(NIFS):核融合炉用大電流導体として開発しているWISE導体のFaro shuffle接続法(表面を酸洗い・洗浄したREBCO積層導体の各層を互いに重ね合わせ,ボルト締めによって機械的に接合する手法)の設計・製作・通電試験結果の報告がされた。2枚接続で10 pΩm2,60枚接続で17~29 pΩm2の接合抵抗率を達成できた。今後は接続部での線材配置の改善や,機械特性の評価が望まれる。
直流送電 3P-p12 座長 平野 直樹
今回の直流送電のセッションでは、ポスター発表1件のみであった。
3P-p12:星野(明星大)らは、電力貯蔵機能を持たせた超電導直流送電システムにより太陽光発電と需要地を接続することで、電力需給調整に必要となる蓄電設備を省略できないかとの観点のよる検討をシミュレーションによって行った。3種類の異なった電力変換回路方法について検討を行い、今回の発表では昇降圧コンバータ回路について新たに解析を行った。昇降圧コンバータはチョッパ周波数を下げることが出来ず計算誤差が蓄積してしまうことから十分な解析ができず解析手法の見直しなどが課題であるが、超電導応用の新しい可能性を支援していきたいとのことであった。